フリーダイバー菊本

魚突き、フリーダイビング、息止め、空家再生の話を書いていきます

鳴門海峡をカナディアンカヌーで渡った話

ここは四国の東端鳴門市
僕らはこの旅一番の難所、鳴門海峡を超え淡路島に渡ろうとしている
鳴門海峡といえば渦潮が有名だ
渦潮は時に30メートルもの大きさになり、その周辺の潮流は時速20キロにも達する。
どんなに頑張っても最高時速6キロのカナディアンカヌーでは太刀打ちできない環境だ。
果たしてこんなところカヌーで渡れるのか
僕らは、まずは情報収集が大事と考え、
鳴門海峡近くでシーカヤックツアーをやってる会社に電話し、相談してみた。
結果は、絶対おすすめしないとのこと。
せめてもと、シーカヤックの並走をお願いしたが、危険すぎると断られてしまった。
そんなに危険なのか鳴門海峡
大阪のゴールを目前としここで旅は終わってしまうのか
絶望の淵にたたされた3人であったが、ふと地図を眺めていると行けそうなルートがあることを発見した
それは鳴門海峡を南に7キロ、鳴門市の東端の鼻のような岬から淡路島の阿万までのルートだ
この間8キロ
時速6キロのカヌーが1時間半全力で漕げば到着する計算になる
果たしてそれは可能なのか?
急いで周辺の地図を手入れ、潮流を確認する
その結果、7月6日朝8時半から10時までの1時間半なら潮が安定しており、渡れることが可能だとわかった
しかし、この計画は、それ以外にも多くの要因が揃わないと達成できない
まずは、風だ
カヌーは風速4メートル以上だと、全く言うことが聞かなくなり、前に進めない
当日は風速3メートル以下が条件になる
次に波だ
波がたっていれば、カヌーは時速6キロを維持することができない
万が一目的地にたどり着くことができなければ、僕らのカヌーは時速20キロの潮流に無抵抗のまま連れてかれ、渦潮のもくずとなってしまうだろう
次に大型船だ
大型船が多い時間帯は、注意第一となり全速で漕げない。船が少ない時間帯を狙う
最後に視界だ
視界が悪いと、目的地が定まらず、また他船と衝突してしまう
せめて8キロ分の視界が必要となる
これらの条件が揃ってはじめて成功することができる
果たして、渡ることができるのか!
翌日
僕はテントに差し込む朝日で目を覚ましかけているが、起き上がりたくない気持ちでいっぱいだ
テントの中からでもわかるほどに雨風強く、今日の航海が絶望的であることを自分の目で確認したくないのだ
しかし、それも長くは続かない
眠い目をこすりながら恐る恐るテントのチャックを開け、外に顔を出してみる
やっぱりだ
テントの中で感じたより、ひどく天気は荒れている
今日は1日待機だな
再び、チャックを締め、次の日に期待し、再び眠りにつくのだった
翌日
まただ
今日の天気も悪い
昨日に比べたらましだが、それでも風はそれなりに吹いている
しかし、望みもある
今日の潮が止まる時間帯は15時20分からのため、午後までに回復することを皆一同願う
午後14時
風がやんできた
体感風速3メールといったところだろう
雨は少しぱらつき、視界は依然悪い
目的地の淡路島がうっすらと確認できるだけだ
これなら、ぎりぎりいけるか
テントを片付け、荷物をすべてまとめカヌーに載せる
これ以上天候が悪化しないことを祈り、15時僕らはカヌーに乗り込み、適度な緊張感をまとい、その時を待つ
15時10分
目の前の視界が急に晴れだし、目の前に淡路島がくっきりと確認できた
みたところ、海峡も悪くない
やはり今がチャンスだ
いまから、いよいよ鳴門海峡を横断する
15時20分
定刻
出発!!
の合図とともに僕らはカヌーを全力でこぎ始めた
一番先頭はリー、真ん中はおおさき、一番後方はじょうまだ
リーはとにかく全力でこぎ、おおさきはパドルば漕がず、まわりの船の確認、現在地、方角があってるかを常に考慮する
じょうまは、パドルを漕ぎつつ、細かい方向修正をするのが各自に与えられた任務だ
出発から30分、ここまでは順調に航海していたが、鳴門海峡の本流についた途端、思わぬことが起き出した
潮の流れが強くなり、それに加え、うねりも大きくなりだしたのだ
これにより僕らのカヌーは漕いでも漕いでも進まなくなってしまったのだ
時速は3キロといったところか
このままこの場所に待機していては、1時間後、本格的に強くなりだした潮に流され僕たちは鳴門の渦潮に巻き込まれてしまうだろう
焦る気持ちを抱えながら、それでも漕ぐことしかできない僕たちは、ありったけの力を振り絞り
パドルを漕ぎつづけた
16時
交代の時間だ
おおさきとリーが場所を交代する
40分間全力で漕ぎ続けたリーは疲れ果て一言もしゃべらない
うねりは幸いにも弱まり、僕らはこの時間を狙って一刻も早く目的地に着くことだけを考える
16時20分
出発から1時間経過し、現在地を確認する
なんと、4キロしか進んでないではないか!
このペースはまずい
到着までにあと1時間かかり
万が一それを過ぎると、強くなる潮に流されてしまう
焦るぼくらは、より一層激しくパドルを漕ぎ続ける
僕の手はすでに握っている感覚がなくなり、手の痺れは強くなってきている
果たして、ゴールまで僕の体は持ってくれるのか
16時40分 
大型船が1隻、目の前を通過する
そのかき分けられた波により、僕らの小型カヌーは大きく横揺れをくらい
船体は大きく傾き、沈没しないようにバランスをとるだけでも必死だ
こんなところで立ち往生していられない
不安定な状態のまま、僕らは必死に前に向かい突き進んでいく
16時55分
とうとうだ
ぼくらは鳴門海峡の本流を抜け、潮の流れが穏やかな湾内に到達したのだ
しかし、油断はできない
ぼくらは手を抜かずさらに漕ぎ続ける
17時5分
もう勝利が目前になってきた
300メートル先にはくっきりと目的地となる淡路島阿万西海岸がくっきりと確認でき、僕たちを迎えいれようとしている
さっきまで緊張のため無言だった3人もようやくは肩の力が抜け笑顔を取り戻している
あと少し、あと少しだ
17時9分
出発より1時間49分
とうとう僕たちは鳴門海峡をちっぽけなカヌーで渡りきり、いま、淡路島に上陸した
やったぞ
皆にカヌーじゃ不可能だと言われた海域を知恵と1ヶ月の経験、体力だけで渡りきった
3人ともこの旅一番の笑顔が自然と溢れる
俺たちはやったぞー!
いえーい!! 
ぼくらは、嬉しさのあまり、お決まりの掛け声を海に向かって叫んでいた
わっしょい!!