「おえっ、このお茶、味の素の味がする!」
これが初めて彼杵茶(そのぎちゃ)を口にした時の僕の感想だった。
僕の生まれは長野県の田舎村。
小さい頃の主食は、ご飯と味の素を大量にかけた野沢菜の漬物だった。
僕は、実家を出るまでの間の18年間で、体が取り込める一生分の味の素の飽和量をとう
に超えていたせいで、これ以上のグルタミン酸ナトリウムの摂取は不可能な体になっていた。
東彼杵町はお茶の町だと聞いていたのに何かがおかしい。
飲んだお茶が良くなかったのか、入れ方が良くないのか、はたまた僕の体がおかしいのか......
もう一度飲めばわかるかもしれない彼杵茶の秘密。
しかし、ビビリな僕はそれ以来、彼杵茶を口にすることはできないでいた。
一方、令和最初の第73回全国茶品評会、蒸し製玉緑茶の部で『そのぎ茶』が産地賞を三年連続受賞したという。
彼杵茶とはいったいなんだ?
そう思っていた矢先、東彼杵町のお茶の生産農家『大山製茶園』への取材のチャンスがやってきた。
そこで、お茶インストラクター大山さんが入れるお茶をいただくことができる。
これでやっとわかるかもしれない本当の彼杵茶の味。
ワクワクとドキドキで眠れない夜を過ごし、当日を迎えた。
日本茶インストラクターがお茶を淹れる
大山製茶園には、お茶のみ処「茶園」があり、日本茶インストラクターの大山さんが淹れるお茶をいただくことができる。
美味しい淹れ方のポイントはこちらだ。
色々書いてあるが、一番重要なポイントはお茶を淹れる温度とのこと。
適温は、70度だ。これは日頃淹れるよりもかなり低い温度である。
低い温度で入れることで、旨味成分であるアミノ酸がよく抽出できるという。
アミノ酸といえば、僕の憎き天敵、グルタミン酸ナトリウムもアミノ酸の一種だ。
しかし大山さん曰く、お茶のアミノ酸はテアニンという種類とのことで一安心。
70度のお湯を急須に入れてから待つこと1分少々。
その後は、回し注ぎで最後の一滴まで残さず茶碗に注ぐ。
お茶の味
遂に茶っ葉も完璧、淹れ方も完璧な彼杵茶が目の前にやってきた。
果たしてお味はどうだろうか......
トラウマが一瞬頭によぎるが、迷わず口にする。
ずずっ!
すぐに口の中全体に芳醇な甘みが広がった。
その後徐々に舌の奥の方から流れるように先端に向かってやってくる苦味。
そして甘みが消えた後に口に広がる渋み。
驚くことに渋みは後を引かず、すぐに口から無くなった。
複雑なテイストだ。
単純な美味しさではなく、芸術作品のように感じる。
そしてもう一口。
口全体にパッと広がるテアニンを主とするアミノ酸各種。
その後時間差でじわじわくるカフェインの波。
そしてテアニンが消えた直後カテキンがじゅわっと口に広がった。
カテキンは自己主張しすぎず、最後に口に残るのは心地よい彼杵茶の高貴な香りだけだ。
うん、うまい。
一気に飲み干し、2煎目も淹れてもらう。
こちらははじめと淹れ方が違うとのこと。
温度を少し高めて、抽出時間も短めでいい。
ずずっ。
今度はさっきより苦味が強い。
温度も高くて甘みの少ない大人のテイストだ。
目の前にあった和菓子を一口いただいてから、またお茶を飲む。
うん、抜群に合う。
うおーー!
こんなに美味かったのか彼杵茶。
彼杵茶のこと勘違いしてました。
すいません。
さいごに
今回の体験を通し、彼杵茶に対するイメージが大きく変わる貴重な一日となりました。
大山製茶園では、お茶を淹れてもらうだけでなく、大山さんに教えてもらいながら自分で美味しいお茶を淹れることもできます。
興味ある方、是非行ってみてくださいね!